- 春は少し苦手。
世間にあふれる「はじまりの気配」にやられるのか、変わらぬ毎日を送っている自分だけが置いてきぼりになったようで気持ちがふさぐ。
そんなときにはちょっと小休止、少し足を延ばして春の海に出かけよう。目指すは海辺のリゾートホテル。
夏の弾(はじ)けるような賑わいとはちょっと違う、のんびりした時間を味わいに行く。都会のど真ん中から各駅停車に乗り込む。車窓から外を眺める。だんだん空が大きくなって景色の先にうっすらと海があらわれる。ほんとうは「海だ!」と叫びたいところだけれど大人だから我慢して、ひとり静かに、遠くなったり近くなったりする水平線を追いかけていると気持ちが清々(せいせい)してくる。
小さな駅を抜け、アスファルトの照り返しも蟬の大合唱もないなかをゆっくりと味わいながらぽくぽくと歩く。
春の日差しを浴びたホテルはのんびりとうつらうつらしているようで、南国気分を盛り上げる木々も穏やかに明るい。ドアマンの笑顔を独り占めしたら、春の柔らかな光に包まれたラウンジへ向かう。 - ホテルのラウンジってどうしてこんなにワクワクするんだろう?
高い天井、食器やカトラリーの触れ合う音、くつろいだ雰囲気でおしゃべりに興じる人たち、その時間をさりげなくサポートしてくれるギャルソンたち。
それぞれが共鳴しあって美しい音楽を奏でているみたいだ。雑音にならないように、スマートを気取って席についたらここからは真剣勝負。コーヒー、紅茶、軽い食事に甘いデザート、そしてお酒。カラフルなメニューの中から春の海辺にふさわしい組み合わせを考える。
こんな午後にぴったりなのは白ワインかシャンパーニュ。これは絶対。お腹も空いているからサンドイッチ? いやいやもっと春にふさわしい何かを。思い切って季節のフルーツタルト。甘いものは得意ではないけれど、自分の好みなんて後回しで春らしさを満喫しよう。
意を決して注文したタルトは思ったよりもずっとずっとおいしくて、グラスの泡々は午後の光に輝いて、春の憂鬱なんて一気に吹き飛ばしてくれたのでした。
絵と文:谷山彩子(たにやま・あやこ)
- イラストレーター。セツ・モードセミナー卒業後、ギャラリー勤務などを経て、フリーのイラストレーターに。雑誌や書籍の挿画、絵本などを手がける。
>シリーズ イラストエッセイ「旅じたくの魔法」
コラムから心象する「海辺のリゾートホテル」2選
下田東急ホテル
- 海抜56メートルの高台に建ち、青く澄んだ海と、温暖な気候、そして豊かな緑を満喫できるリゾートホテル。海を一望する露天風呂は、肌に優しい、やわらかな湯質。絶景とリラックスとを一度に味わえる至福の時間を過ごすことができる。
下田東急ホテル
伊豆今井浜東急ホテル
- 静岡県・東伊豆に位置し、相模湾に面したシーサイドリゾートホテル。 “ミニハワイ”を思わせる開放的で優美なデザインの館内には、レストランやラウンジ、ブックカフェ、温泉大浴場などを有し、滞在型リゾートとして過ごすことができる。