- 我が家の旅じたくの最重要事項は、黒猫兄弟ロクとシチのこと。人間はなにがあろうとどうにでもなるけれど、猫たちはどうにもしてくれない。
- 2泊以上の旅ならば、ご飯とトイレの世話をしてくれるシッターさんにお願いして心置きなく旅立つけれど、それは急に決まった1泊の旅。秋風の心地よい季節だったので早めに戻れば大丈夫と猫だけで留守番してもらうことに。
- 生後4か月のやんちゃ盛りのロクとシチ、初めてのお留守番である。
- 出発の朝、猫のための支度をする。
- カリカリ(ドライフード)をどんぶり鉢にたっぷり入れて家の2〜3か所に置く。水も同様に配置して、念のために台所のシンクにも水を張る。トイレの砂は多めに入れて、外気が入るように、防犯と脱出に留意しながら少し窓を開ける。どこかに閉じ込められたら大変と、すべての扉にストッパーをねじ込み、割れたら危険なガラスや陶器はあちこちに隠す。
- 「ふぅ、これで大丈夫」
- そして、これが最後の準備。ロクとシチそれぞれに「今日は帰ってこないけれど、明日には帰ってくるから仲良くお留守番してね。よろしくね」と、よくよく言い聞かせて、さあ出発。
- 旅先で楽しいひとときを過ごし、ご機嫌で帰る車中の話題は猫たちのことばかり。
- 大丈夫かな?
- 私たちが帰ったら喜んでくれるかな?
- ワクワクしながら「ただいま〜」と玄関を開けるとやけにシーンとしている。見ると寝室の扉が閉まっている!
- 恐る恐る開けてみるとぐっちゃぐちゃな掛け布団、部屋のあっちとこっちで怯えた目をしてうずくまるロクとシチ。慌ててご飯を見てみると食べた形跡がない。どうやら出発後すぐに閉じ込められてしまったらしい。確かにドアストッパーをしたはずなのに、少し開けた窓から強い風が吹いたのか? 私が浮かれてうっかりしたのだろうか?
- 猫たちへの申し訳なさと旅の疲れとで半泣きになりながら、汚れた布団の洗濯と掃除をしたのでした。
絵と文:谷山彩子(たにやま・あやこ)
- イラストレーター。セツ・モードセミナー卒業後、ギャラリー勤務などを経て、フリーのイラストレーターに。雑誌や書籍の挿画、絵本などを手がける。
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