TRAVEL
2024.05.24
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イラストエッセイ「旅じたくの魔法」
エレガントな服と靴
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- 旅の必需品。
それは着回しのできる服。
最低限のスキンケアとメイクの道具。
ガイドブックと文庫を一冊。
お気に入りのバスソルト。
そしてディナーのための大判のスカーフとバレエシューズ。
ディナーのためなんて気取っているけど、これは“ごっこ遊び”の必須アイテム。
- 「エレガントな服と靴は必ず持ってくること」
絵の学校の卒業旅行のオリエンテーションで目を丸くした。
「ディナーの前にはシャワーを浴びてこざっぱりした格好をすること。エレガントなスカーフが一枚あればそれができるでしょう?」と、先生の話は続いた。
ディナーにおしゃれ。気恥ずかしかった。でも、かろうじてエレガントと思われるスカーフとバレエシューズもトランクに詰めて、欧州旅行へ出かけた。
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日中は画板を持って南仏の街をさまよい、絵の具にまみれる画学生が、夜はおしゃれをしてディナーに出かける。
エレガントな女性に変身(あくまでも本人の気持ちだけど)。
これがね、とっても楽しかったのです。
旅という非日常のなかで、さらに特別な時間をつくることって贅沢な遊びだなって。大人ごっこのようで面白いし、小さく畳めるスカーフとたいしてかさばらないバレエシューズで叶うことも素敵だった。
- はい、あれから30年。
すっかり大人になりましたが、相変わらず大人ごっこは続いています。いまでは「食事のときの服はこれでいいかな?」なんて確認しながら荷造りをする、夫という遊び仲間も加わりました。
ガイドブック片手に歩き回った心地よい疲労感と、ささやかなお土産とともにホテルに戻り、大きく息をつきながら座り込んでしばし休憩。
「さぁて」の声とともに、大人ごっこが始まります。
バスソルトを入れたお風呂でくつろいで、お化粧してスカーフをさらりと巻いて。もう本物の大人なのだから、アクセサリーもつけましょうか。
バレエシューズ越しに廊下の絨毯のフワフワを感じながら、しゃなりしゃなりと、私はメインダイニングへ向かいます。
絵と文:谷山彩子(たにやま・あやこ)
- イラストレーター。セツ・モードセミナー卒業後、ギャラリー勤務などを経て、フリーのイラストレーターに。雑誌や書籍の挿画、絵本などを手がける。
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