- 江戸時代後期に十返舎一九が記した滑稽本『東海道中膝栗毛』。主人公の弥次さんと喜多さんは、江戸から伊勢へ向かう旅の途中でさまざまな宿場町や間の宿(あいのしゅく)を訪れます。そのひとつが、「絞り」の町として有名な有松。弥次さんは絞りの素晴らしさにひと目惚れし、手拭いを購入しました。
- 「絞り」とは古代から伝わる染めの技法。布を縛ってシワを寄せ、固定したあとに染色を行います。縛り糸を抜き取れば、絞りの完成。この時に、どれだけ美しく白地を残せるかが出来映えの鍵になります。絞りの工程は図案選定、型紙取り、下絵刷り、絞り加工(くくり)、染色、糸抜き、仕上げの7つ。有松ではそれぞれの工程が分業で営まれ、かつては町の多くの人が絞りの仕事に携わっていました。
- 有松の絞りは、江戸時代には尾張藩の庇護のもと、将軍に献上する高級品として珍重されました。その後、明治維新により一時衰退しましたが、明治時代から大正時代にかけて再び最盛期を迎えます。1975年には国の伝統的工芸品に指定され、2019年には日本が誇る文化・伝統をストーリーとして認定する取り組み「日本遺産」に「江戸時代の情緒に触れる絞りの産地」として有松が登録されています。
- さらに有松では絞りの魅力を海外に向けて発信。世界20ヵ国の関係者を集めた「国際絞り会議」の開催や、「ワールド絞りネットワーク」を設立するなど努力を重ねた結果、「絞り」は「Shibori」として海外でも広く知られるように。
世界的にも有名な「絞り」に惹かれ、国内はもとより、海外からも多くの観光客が訪れる有松。特に6月の「有松絞りまつり」の期間は、町中に美しい絞りが飾られ、華やかなムードに包まれる。 - 国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された有松には、今も江戸時代の町並みが当時の姿のまま残ります。歌川広重が描いた『東海道五拾三次之内 鳴海 名物有松絞』と比べると、そのままの雰囲気にびっくり!この町並みは1784(天明4)年の有松の大火からの復興によって形作られたもの。大火により全戸焼失したことを機に、防火を考慮した桟瓦葺(さんがわらぶき)・塗籠造(ぬりごめづくり)が取り入れられたといいます。有松の商家は他の地区と比べて間口が広く、日差しから藍染めの商品を守るために軒が低くなっているのが大きな特徴です。
江戸後期の浮世絵師・歌川広重が有松の町並みを描いた『東海道五拾三次之内 鳴海 名物有松絞』。 1784年の有松の大火を機に、整備し直された有松の町並み。現在も、当時の商家を改装したカフェなどを含む建物が約800mにわたって残されており、歴史を感じながら散策を楽しむことができる。 - 散策の途中で立ち寄ってみたいのは「有松・鳴海絞会館」。歴史的にも価値が高い製品や資料が展示され、有松の絞りについて詳しく学ぶことができます。工芸士による実演も見逃せません。
- 有松の絞りは着物や浴衣、手拭いなどの伝統的な製品のほか、アクセサリーやTシャツなどバリエーションが豊富。伝統を守るだけではなく、さらなる進化を目指す、有松の絞りは明るい未来を感じさせてくれます。
絞りの歴史や技法を紹介する有松・鳴海絞会館では、工芸士の方々が絞りづくりに励んでいる。
TRAVEL
2023.05.12
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Traveling to Japan Heritage Sites
本物に出合える日本遺産の旅⑤
藍染が風にゆれる町で江戸時代の情緒に触れる
本物に出合える日本遺産の旅⑤
400年の歴史を持ち、日本を代表する「絞り」の産地として知られる名古屋市・有松。今も職人が伝統の技法を守り続けるこの町には、浮世絵のような心懐かしくなる風景が広がっています。
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- Toru Kawagishi
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