TOKYU HOTELS

2023.12.15
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Engaging with the SDGs
食育授業@東京都市大学付属小学校
子どもたちの“ 五感センサーを呼び覚ます”

食育を自身のライフワークとしている東急ホテルズの福田順彦総料理長。
2023年4月からは東京都市大学付属小学校の4年生に、健やかな身体の成長、豊かな心を育むことを目的にした授業を行っています。
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  • Mico Fujita
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  • Takao Ohta
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「五感の育成」と「食事を共にすることの喜び」の大切さを学ぶ

  • 「味覚を妨害するものには、口の中に入れる飲食物自体の刺激と五感で感じる外部からの刺激があります」
  • 東急ホテルズの福田順彦総料理長の説明に、「なるほど」と頷く小学4年生たち。普段と違う授業に児童たちは真剣に耳を傾けました。
  • 福田が食育に関わるようになったのは「セルリアンタワー 東急ホテル」の総料理長に就任が決まった2001年頃。食関連の財団法人からのオファーを受け、渋谷区の公民館で味覚の講座を開催していました。また’10年からは「東京ガス Studio +G GINZA」で講師を務めたことも。当時は食育という言葉を今ほど耳にしませんでした。
  • 「フランスでは、もっと以前から国策として子どもたちに食の大切さを教えていくことを実践し、効果的な導き方などの研究も進んでいます。そして、アラン・デュカス、ピエール・ガニェールなどの著名なシェフを筆頭に、料理人は食べる人の健康を気遣うべく、その指導役として活躍。私もそういった機会を得られたことに喜びを感じ、ライフワークのひとつとしてやらせていただいています」
  • 講座を始めた当初は、先人たちの知恵を得るために本を読んだり、実際にフランス人の識者から話を聞いたりしていた福田。食育をはじめる適齢期は10歳であることが脳科学的に立証されていることを知りました。
  • 「好き嫌いではなく、甘い、苦い、辛いなど味を具体的に認識し、それを分類できるようになるのがその年齢からだそうです。視覚、嗅覚や聴覚もしかり。ですから、10歳の時点で五感を意識することを教える授業は非常に大切なのです」
  • 福田の授業では、五感とは何かをわかりやすく体験することで味覚への興味を引き出していきます。これまでの授業で子どもたちは、水にほんの少しの塩味、酸味、苦味、甘味を加えたものをテイスティング。しょっぱい、すっぱい、苦い、甘いについて一緒に考えました。
  • 「テイスティングはプロの料理人でも難しかったりします。一般的にストレスがあると口の中が苦くなるので、大人はどれも苦いと感じがちなのですが、近年は子どもたちにもその傾向が増えているようです。授業の目的は味覚を意識する、つまり眠っている五感センサーを呼び起こすこと。誰にも利き手があるように、目、耳、鼻も右と左で感度が違うんだよと話すと、子どもたちは右、左と交互に集中して試し、左の鼻のほうが匂いがよくわかる、右目の方が見やすいなど感覚の違いを実感します。こうした意識を日々積み重ねていけば五感センサーが鋭敏になるだけでなく、味わう楽しさに目覚め、味を言葉で表現できるようになります」
  • 五感が発達することで、例えばニンジンが嫌いだった子どもがよく噛むと甘みを感じることに気づき、苦手な気持ちが薄れていくということもあるそう。食材を選ぶ時にも、色、匂い、触感などを意識できれば、いいものを判断できるようになると言います。
  • 「私が最も伝えたいのは“食事をともにする喜び”です。日常の食事はできれば既製品ではなく、おうちの方の手づくりがいいですね。作る立場からは“おいしい”を期待したいところですが、“これちょっと私には辛い”とか“しょっぱいね”という感想が言えることも大切なこと。家族の好みを汲んだ家庭の味こそが心の安定につながっていくからです。また、楽しい食事の場ではコミュニケーション能力も育ち、家族をはじめ人との絆も深まるのではないでしょうか」
  • 世の中はどんどん変化しています。そんななか絶対に変わってはいけないもの、揺るぎない食とは何かを考え、見つけ出し、わかりやすく伝えていきたいと福田は言います。
  • 「長く続けていると、成人した教え子から『10歳の時にあの話を聞いてよかった』とレストランに会いにきてくれることもあります。その喜びを胸に、これからも食育の活動を続けていきたいと思っています」

  • この日の授業は食事のマナーと味覚を妨害するもの。ヘッドホンやタブレットを使って学ぶ。

  • ミックスジュースをヘッドホンで雑音を聞きながら飲むのと、ヘッドホンを外して味わうことに集中して飲むのでは、味が違ってくることを体験。

福田順彦

  • Nobuhiko Fukuda
  • 1957年生まれ。2001年「セルリアンタワー東急ホテル」開業時に総料理長に就任。現在は東急ホテルズ&リゾーツの専務執行役員として東急ホテルズ全体の食部門を統括。’18年にはフランスの食文化の普及・発展に貢献したことが認められ、フランス政府より農事功労章「オフィシエ」を受章。


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