- 渋谷という街をひと言で表すと、「変わり続ける街」だと思います。変化を受け入れる柔軟さを持ち、意識をアップデートし続けられるところが、この街の他にはない強みではないでしょうか。
- 2016年に渋谷区では、20年先を見すえた「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という基本構想を策定しました。渋谷区がもっとも大切にしていくことは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)です。教育やビジネス、エンターテインメント、さまざまな分野で多様なものが混じり合い、刺激し合うことで新しいイノベーションを生み出し、未来を創っていくという思いが込められています。これは変わり続けられる街である渋谷だからこそ掲げられる、ユニークな基本構想ではないかと思います。多様性があるからこそ変化が生まれるというのは、都市として素晴らしい力だと考えています。
- 現在も渋谷駅中心地区や桜丘エリアが、エンターテインメントやビジネスの発信地として変化し続けているのと同時に、複雑化した動線の改良や渋谷川の再生など、街としての快適性を高めることにも取り組んでいます。こういった区民サービスのためには、民間企業との連携が不可欠です。手を取り合い、協力しながら、より面白さと快適さのある街にしていきたい。
渋谷ストリーム前のにぎわいイメージ(提供元:渋谷ストリーム)
- 実は、いずれはロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷区と並べられるような情報発信力を持った街にしていきたいんです。冗談で言っているみたいですが、そうやって言葉にすることで、グローバルな視点を持つように努めています。これまで「他の区はこうだった」「東京の他の自治体はどうだった」と言っていたけれど、世界に目を向ければもっとたくさんの事例があります。多様な人たちを相手にするなら、これまで通りのことをやっていては無理ですよね。子育て支援のレベルが高いフィンランドの事例を学んだり、ランニングコースとしても有名なニューヨークのハイラインを笹塚、幡ヶ谷、初台といった地区の整備の参照にしたり……。こういった革新的な取り組みができるのも、やはり渋谷区だからこそですね。
- 渋谷区のシンボルである「けやき」は、四季折々で鮮やかな変化を見せてくれる木です。しかしその一方で、木の幹のように変わらないものが、渋谷にももちろんあります。例えば表参道はファッションの街というイメージもあるけれど、同時に明治神宮へと続く“参道”という歴史を持っています。地権者が参道への敬意を払って、高すぎる建物を建てないようにするなど自分たちでルールを作っています。昔も今も明治神宮の参道であるということが住民のプライドにつながっているということですね。
金王橋広場(提供元:渋谷ストリーム)
- 私自身、渋谷生まれ、渋谷育ちというローカルだからこそそういった古いものと新しいものの融合も、よりよく見えるのかもしれません。区長になってからはさらに隅々まで歩くようにしているので、「ここはもっとこうしたら賑わいを生み出せる」というのが自然と見えてくるんです。今は明治神宮につながる道として、北参道、西参道も整備を進めてそのポテンシャルを発揮させたいと思っています。
- もちろん今は、海外からの旅行者はほとんどいないという観光面では非常に厳しい状況です。しかし悪いニュースばかりでもなくて、海外在住の外国人に対して行ったアンケートで「アフターコロナになったらどこに行きたい?」というものがありましたが、“日本”と答えた人が非常に多かったそうです。もちろん、簡単には収束しないという状況ですので楽観はできませんが、人の「どこかに行きたい」「遊びたい」という思いはなくならないものです。その時にまた選んでもらえる街でありたい。区という小さい単位ですが、工夫をしていけば面白い街はできると思います。エンタメでも、ICTによるイノベーションでも「ちがいをちからに変える」からこそできることを、今この時代こそ進めていきたい。そう考えています。
KEN HASEBE
- 1972年東京都渋谷区生まれ。大学卒業後は博報堂に入社。2002年に退社し、’03年にNPO法人green birdを設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨て対策プロモーション活動を開始する。同年には渋谷区議会議員選挙でトップ当選を果たし、計3期区議を務めた。’15年から渋谷区長に。