INTERVIEW

2023.04.14
INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW "Yuko Nagayama"
建築家 永山祐子「 歌舞伎町の新たなシンボルとなる、噴水のような存在に」<前編>

今年4月、東京・新宿歌舞伎町の新宿TOKYU MILANO跡地にオープンする東急歌舞伎町タワー。
その外装デザインを手掛けたのが、JINS PARK前橋やドバイ国際博覧会 日本館など、国内外で活躍する建築家の永山祐子さん。
6年以上の構想を経て、完成にいたるまでの知られざる苦労やデザインに込めた思いをうかがいました。
  • TEXT
  • Yukiko Ushimaru
  • PHOTO
  • Yoshihisa Marutani
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  • 阿佐谷出身の私にとって新宿・歌舞伎町は子供のころから休日に映画や買い物に行く街でした。今も子供と映画をよく観に行きます。今回、「東急歌舞伎町タワー」のデザインに携わることになり街の歴史を調べたのですが、戦後間もない時代にもかかわらず、国民には娯楽が必要だと地元の鈴木喜兵衛さんの奮闘により復興を成し遂げ、一大エンターテインメントの街になったことを知りました。そのため、そんな東京の中でも特別な街が持つストーリーをきちんと考えながら、デザインしていこうと思いました。

    遡れば、もともとこの一帯は沼地で川も流れ、その名残として現在も街の真ん中に水の神様である弁天様が祀られています。また、タワーの前にはかつて広場があり、学生が飛び込んだりする名物の噴水もありました。噴水は下から上へと湧き上がる勢いによって生まれるもの。この街に溢れる人の思いや活気が集まり、ここでひとつの形となる。街の歴史をそんなストーリーに重ね合わせていくなかで、ひとつのシンボルとして「東急歌舞伎町タワー」という新たな噴水を立ち上がらせようというアイデアが生まれました。

    またもうひとつ、このタワーの大きな特徴が、これまでの高層ビルのようなオフィスは一切入らず、劇場や映画館、ホテルなどだけで構成される、日本で初めてのエンターテインメント・スカイスクレイパーになるということ。オフィスが入るビルは、どちらかというと権威的でマッチョなイメージの建物が多いと思いますが、エンターテインメントに徹したビルならば、従来の高層ビルとは異なるもっと繊細な、まさに水のような揺らぎがある建築でもいいのではないかと考えたんです。


独自の発想と緻密な検証がタワーに表情を生み出す


  •  とはいえ、硬質な素材でつくられる高層ビルでどうやって水を表現できるのか。これまでの私の作品では“光と反射”を重要視していたこともあり、ビルを覆うガラスに注目しました。ガラスが持つ反射という特性をうまくコントロールして、儚(はかな)さや揺らぎを表現しようと考えました。

    そのためタワーを取り巻くガラスは、向きを少しずつ変えて光を屈折させ、また使用した約4000枚のガラスには、水の動きを表すために、よく見ると1枚1枚に模様が印刷されています。中層階から高層階にあるホテルの一室一室からの眺望を邪魔せず、なおかつビル全体を遠くから見た時にはふわっとグラデーションで見えるパターンの連続感をつくるという作業はまさにパズル(笑)。その作業だけの専任スタッフが何ヵ月もかけて配置を決定しました。ガラス表面へのシルクスクリーン印刷もこんな数㎜単位の細かな印刷はできないと言われたのですが、調整を重ね、結局修正が必要だったのは4000枚のうちわずか1ヵ所のみという高い精度で完成しました。

    高層ビルの場合、安全性への配慮などのため規制も厳しいですし、機能性も求められます。例えばタワーの最上部も、窓の清掃用ゴンドラを設置するスペースや、緊急用消防ヘリポートにヘリが着地するためのルートの確保が必要です。そのすべてを考慮したうえでできあがったのが、水が湧き上がっていく勢いを表現した現在のデザインです。

    光と反射によって、このタワー独自の表情を生み出すものにしたい。その思いを現実にするためには、膨大な検証が必要でしたが、各所のプロフェッショナルの方々にご協力いただくことで無事に実現することができました。光という意味では、照明の効果もあります。オフィスフロアがあるとフロアごとに照明がつくので、ビルの明かりは縞状になりますが、ホテルの場合、客室ひとつひとつに明かりが灯ります。窓ごとにポツポツと光の粒のように見えるんです。そんな光を縁取る窓はアーチ型。ヒューマンスケールに基づく窓として、人間がそこにいることを感じさせるとともに、縦横に続くアーチが昔からある日本の水の文様“青海波(せいがいは)”のように見えます。

    タワーのライトアップも、四季やクリスマスなどのイベント、劇場のこけら落とし公演『舞台・エヴァンゲリオン Beyond』がテーマのライティングなどいろいろと考えていますので、こちらもぜひ楽しみにしていただきたいですね。

    「東急歌舞伎町タワー」で初めて超高層ビルのデザインに携わることになった今回。細やかに設計をし、ここまで緻密な検証を重ねこだわってきたのは、仕事のスケールが大きくなっても、私たちがこれまで取り組んできた住宅や店舗、文化施設でやってきたことと、基本的なスタンスは変わらないと考えているからです。大きなビルですから、私たちがこだわった細かい部分は、遠くから建物を見た時にはあまり影響ないのでは?と思われるかもしれません。でもその細やかさは、必ずビルの表情に出てくるもの。そして遠くから建物を見た時に、都市の中で噴水のように立ち上るタワーの風景に、プラスの影響を及ぼすと信じています。


Yuko Nagayama


  • 1975年東京都生まれ。昭和女子大学生活環境学科卒業後、ʼ98年~2002年青木淳建築計画事務所勤務。ʼ02年に永山祐子建築設計を設立。主な仕事に豊島横尾館、ドバイ国際博覧会 日本館、ルイ・ヴィトン京都大丸店、JINS PARK前橋など。東京駅前に進行中のTorch Tower(低層部)も手掛けている。JIA新人賞、WAF Highly Commended賞、JCD Design Award銀賞、東京建築賞優秀賞、照明デザイン賞最優秀賞など受賞多数。




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